概要
神のお使いとして災いを祓い清める「善き鬼」
追儺(ついな)とは、通称、「おにやらい」「おにおい」と云って、我国では文武天皇時代より毎年大晦日に、宮中、社寺、民間で行なわれてきた大祓の年中行事です。
現在各家庭では豆まきがおこなわれています。
元来大晦日に行なわれていましたが、今日では大陽暦採用の関係上、春の節分に行ない、翌日の立春(旧暦では新年を意味する)を祝い迎える行事となっています。
一般に、鬼は不吉なもの、種々の不幸・災をもたらすものと嫌われ(中国よりもたらされた思想)、この鬼を追い払い一陽来復の立春の目出度き新年の家内安全、無病息災を願うのがこの行事の目的です。
しかし長田神社追儺式の鬼は、 前記の鬼とは意味を異にし、神々のお使いとしての鬼であり、神々に代わって全ての災(わざわい)を払い清めて、清々しい良い年を迎えることを祈り踊ることが特徴となっています。
(これと同じ姿の鬼は、東北地方の「なまはげ」「おしらさま」等に見られます。)
この神事の起源は、はっきりしていませんが鬼面、太刀等の製作年代や古文書等より、室町時代(約650年程前)には、境内の薬師堂に於ける修正会として、既に現況の様な形で行なわれていたことが伺われ、古い形態を今日に伝える貴重な神事として、鬼面並び行事一式が昭和45年兵庫県の重要無形民俗文化財に指定されました。
追儺式の内容
神事は、一番太郎鬼(いちばんたろうおに)、赤鬼
(あかおに)、青鬼(あおおに)、姥鬼(うばおに)、呆助鬼(ほおすけおに)、大役鬼といわれる餅割鬼(もちわりおに)、尻くじり鬼(しりくじりおに)の七匹の鬼と太刀役(たちやく)と云う五人の童児(十歳前後)、肝煎り(きもいり)と云う世話人等数十名が奉仕します。
この人等は、神社近在の昔からの氏人(旧長田村)の人に限られています。
奉仕者は、前日より各々鬼宿(おにのやど)、太刀役宿(たちやくのやど)に籠ります。
鬼役は神社境内にて身を清めるため何度も井戸水をかってから、追儺式の練習を重ねます。
更に、当日早朝は須磨の海岸で海中に入り禊ぎを行い、身も心も清めて神の代理としての鬼役となります。
社殿の前に舞台(東西十二間)を設けます。
拝殿正面に「泰平の餅(たいへいのもち)」、その左右に「六十四州の餅(ろくじゅうよしゅうのもち)」を各々榊葉で飾ってぶら下げます。
舞台中央に「影の餅(かげのもち)」を据え 拝殿には「餅花(もちばな)」を飾りつけます。
泰平の餅(太陽と月、並びに天地を表わす)
六十四州の餅(日本の国々を表す)
影の餅(別名鬼の餅、一年十ニケ月を表わす十二個の餅)
餅花(柳の枝に餅とミカンをつけて花が咲いた様にする。 宇宙と星並びに人々を表わす)
スケジュール
毎年春の節分に行われます。
午後12時30分の節分祭に参列
鬼 ・太刀役・肝煎りの人々は、鬼の宿より威儀を正して参進(練り込みと云う)し、本殿にて執り行われる節分祭に参列します。
祭典斎了後、拝殿にて鬼面・諸道具・忌火を神職より受け取り、社殿裏にある鬼室(おにむろ)で鬼の仕度(装束は麻布の上下一体の特殊な衣裳でカヤと呼ばれる)をします。
この時、忌火により舞台東西に篝火がたかれます。
午後1時30分頃 行事の始まり
■太鼓、ほら貝の音に合せ、先ず一番太郎鬼が右手に麦藁(むぎわら)で作った松明(たいまつ)を持ち踊りながら三度登場
■次いで各々松明を持った赤鬼、姥鬼、呆助鬼、青鬼、一番太郎鬼の順で現われ、五匹揃って演舞を二度行ないます。
■次に餅割鬼が右手に松明、左手に斧(おの)、尻くじり鬼が腰に槌(つち)右手に松明、左手に大矛(おおほこ)を持って踊ります。
■次いで赤鬼以下五匹が登場、舞台上で太刀役より太刀を受取り(太刀渡しと云う)、右手に松明、太刀を左肩に演舞します。
■次いで再び餅割鬼、尻くじり鬼の二匹が現われ、更に御礼参りと云って先の五匹が現れます。
■愈々最後に、この行事の最高調の見せ場である餅割行事が行われます。
餅割鬼、尻くじり鬼の二匹により「泰平の餅」「六十四州の餅」「影の餅」を斧・槌で割ろう(災厄解除の祓を意味します)と、いろいろな面白い所作を繰りひろげ繰り返しながら踊り、最後に「影の餅」を斧で割り(新年を祓い清め終わる意味があります)、鬼室に退下して行事は終了となります。
※大役の餅割鬼奉仕者は神事の主役であり、餅割鬼を務めるためには各鬼役を奉仕(少なくとも七回以上)して始めて務めることが許されます。
この行事は、七匹の鬼が神々のお使いとして、
松明の炎で種々の災を焼きつくし、
太刀の刃で寄り来る凶事を切り捨て、
天地を祓い 国土を清め、
一年間の人々の無病息災、家内安全を祈り願って、
一陽来復の立春が再び巡り来ることを喜び祝う願う予祝の行事なのです。
参拝者は、松明の灰をかぶる(行事に立ち会う)ことにより祓を受けます。
また、松明の燃え残りを家の入口に吊して除災招福を願い、餅花を食べて無病息災、家内安全を願い、この年の平穏を祈るのが古来よりの風習となっています。
現在では神職が松明の燃え残りを小さく束ね、家の入り口に吊るしやすいようにしたものを皆様に授与しています。
節分当日 神門下の仮設授与所へお越し下さい。
(初穂料は令和7年より500円となります)