夜泣き石



長田から苅藻川をさかのぼって明泉寺の谷を北に進み、白川に通じる長坂越えと呼ばれる山道があった。
この長坂の道端に円すい形の富士山のような姿をした石があった。 「この石を、長田神社の庭石にしよう。」
と長田の村人は、苦心してその石を運びおろし、神社に納めた。贈られた長田神社の当時の神主は、
「神社にはたくさんの庭石があるから、この見事な石はわが家にもらって帰ることにしよう。」
と、平野の自宅に持ち帰った。
その夜のことであった。夜も更けた頃、神主の家では、どこからともなく、すすり泣くような声がしたのである。
「庭で誰かが泣いているような声がするが・・・・・。」
「シクシク、長田へ帰りたい。シクシク、長田へ・・・・・。」
庭を見ても、誰もいない。いく夜もそんなことが続いた。ついに神主は夜通し庭で見張りをすることにした。
そしてその夜も、泣き声が聞こえた。
「シクシク。シクシク、長田へ帰ろう・・・・・。」
どこから聞こえてくるのか調べてみると、庭に置いた富士山の形の石から聞こえてくるようであった。
見ると、石の表面がじっとりとぬれていた。
翌朝、さっそく神主は村人に頼んで石を長田へ運んだ。これを夜泣き石と呼んで、神社の境内に安置した。
「ながたの民話」より